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院長コラム
2021/10/12
【コラム】グレインフリーのフードについて

 
最近はグレインフリーのペットフードが流行っているようです。ただ、個人的にはあまりお勧めはしておりません。
 

グレインフリーが良いという主張の根拠
 
グレインフリーが良いという主張の根拠はおそらく以下の4つです。

1.肉食だから炭水化物は良くない

2.肉食だから穀物は消化吸収できない

3.グレインフリーは低GIで健康に良い

4.グレインフリーはアレルギー予防になる
 
 
・1について
   
グレインフリーのペットフードには穀物由来の炭水化物は含まれていませんが、イモなど由来の炭水化物はふつうに含まれています。含有量は製品によってばらつきがあります。グレインフリーであることと低炭水化物であることはイコールではありませんので、炭水化物を気にしてグレインフリーを(含有量を計算せずに)選ぶのは間違いということになります。
 
猫は肉食、犬は雑食に近い肉食ですので、炭水化物の消化吸収能力は人よりも劣ります。犬猫(特に猫)において「タンパク質多め・炭水化物少なめ」のフードが適しているのは間違いないですから、低炭水化物のフードを選ぶこと自体は悪いことではありません。ただ、炭水化物を減らすとその分タンパク質や脂肪の摂取が増えることになります。脂肪は健康に悪そうだからタンパク質を増やせばいいと思われるかもしれませんが、タンパク質を摂取しすぎると肝臓や腎臓に負担がかかります。また、肉由来のタンパク質が多いとリンの含有量も多くなる傾向があります。このような理由から、高齢であったり腎臓が悪かったりする動物においては特に注意が必要です。炭水化物は悪い面ばかりではなく、適量であれば臓器への負担を減らしつつ栄養を摂ることができます。
   
 
・2について
  
ペットフードに含まれる穀物は加熱加工されており、犬猫でも消化吸収できます。野生の時代に食べていなかったのは穀物もイモも豆も同じことですから、グレインフリーを選ぶ理由にはなりません。ペットフードはやめて生肉を食べさせるというのであれば(良いか悪いかは別として)筋は通っていますが、そうでないのであれば穀物だけ気にしても意味がないのではないかと思います。
   
  
・3について
  
穀物はGI(グリセミックインデックス)が高値で血糖値を急上昇させるから良くないという話もあるようです。
 
ただ、穀物の全てが高GIなわけではありませんし(大麦など)、穀物以外でも高GIの原材料はたくさんあります(ジャガイモなど)。グレインフリーだから低GIであるとは限りません。
  
ペットフードには様々な成分が含まれていますので、一部の原材料のGI値だけでフード全体を判断することはできません。小麦が入っているからダメ、ジャガイモが入っているからダメ、ということにはならないですし、食物繊維量などの要因によっても血糖値の上昇スピードは変わってきます。
   
 
・4について
   
犬猫においては穀物のアレルギーが多いわけではなく、むしろ肉類(猫は魚も)のアレルギーのほうが多いです。穀物だけを制限する理由はありません。
  
基本的に、アレルギー症状がなければアレルギー対策のフードを考慮する必要はありません。症状があるのであれば試してみる価値はありますが、穀物アレルギーの可能性が高いわけではないということは認識しておく必要があります。本格的に診断や治療をするのであればアレルギー用療法食を使用したほうがいいでしょう。
  
       

グレインフリーのデメリット
 
犬の拡張型心筋症とグレインフリーフードに関連があるという報告が続々と発表されています。研究途上でわかっていないことも多いです。グレインフリーフードを食べていても発症しない可能性のほうが高いでしょうけれども、そのようなリスクがある中であえて選ぶほどのメリットがあるのかという話になります。少なくとも、好発犬種の大型犬ではやめておいたほうが無難かと思われます。
 
  

前半のまとめ
 
・グレインフリーだから安全で健康に良いということは全くない。
  
・低炭水化物、低GIのフードを選びたい場合は、グレインフリーかどうかに関わらず含有量などを計算して決めたほうが良い。
  
・アレルギーが疑われる動物には試してみてもいいが、どうせやるなら療法食のほうが信用性が高い。

     
グレインフリーが流行っているのは、「なんとなく健康に良さそうだし、メーカーもそれらしいことを言って宣伝しているし、ネットにもそれらしいことが書いてあるから」という理由であろうと思われます。もともとは人のセリアック病が有名になり、グルテンフリーが流行し、動物にも流れてきて、いろいろと理屈が後付けされ、グレインフリーがもてはやされるようになった、ということなのではないかと思われますが、人と動物の病気は異なりますし、そもそも人でも病気がなければグルテンフリーにするメリットはありません。
  
食物アレルギーの可能性を指摘するとグレインフリーに走る飼い主さんは割といらっしゃいます。走って悪いわけではありませんが、期待しすぎないほうがいいです。症状が良くならなければ療法食を試してみたほうがいいでしょう。食物アレルギーの診断治療はただでさえ難しいため、飼い主さんが自己判断で適当にやっていると無駄なお金と時間をかけて且つ治らないという結果になりがちです。獣医師の診察や指導を受けながら治療していくことをお勧めします。
  
グレインフリーフードに変えてから調子が良くなったとおっしゃる方はいらっしゃいますが、それはグレインフリーによる影響とは言い切れません。たまたまグレインフリーの1製品を使ってみたら調子が良くなったというだけであって、非グレインフリーの1製品でも調子が良くなっていたかもしれないですよね。グレインフリーならどの製品でも調子が良く、非グレインフリーならどの製品でも調子が悪いということであればグレインフリーが合っているということが言えるでしょう。いろいろな製品を試してみるのは良いと思います。
  
グレインフリー製品はよく売れるみたいですので、メーカーが推すのは商売上当然のことと思います。「グレインフリー=健康に良い」という思い込みが問題なわけであって、グレインフリー製品の中にも良いものとそうでもないものがあるという認識を持っていれば問題ないと思います。ただ、拡張型心筋症の懸念はありますので、現状は獣医師としてはあまりお勧めできません。
   
   

健康な動物に何を食べさせればいいか
   
では何を食べさせればいいのかということになりますが、私は健康な動物のフードにはあまりこだわりはありません。高級フードのほうが健康に良さそうではありますが、安いフードを食べさせた場合と比べて病気の発症率に差が表れるのかははっきりしません。最低限として総合栄養食さえ選んでいれば悪くはないだろうと思っておりますが、熱意のある方は高級フードや手作り食を使ってもらったほうが良いといえば良いのでしょう。
  
高級フードを食べさせていても、肥満になるようであれば意味がありません。何を食べさせるかだけでなく、食べる量、運動などを含めて管理することが望ましいです。
  
個々の動物に適したフードは年齢、体重、健康状態などの要因によって変わってきます。相性もありますから、食べさせてみないとわからない部分もあるでしょう。いろいろ調べたとしても結局はメーカーが言うことを信用するしかありませんので、メーカー選びが重要となります。私も含めて大体の獣医師は療法食を作っているメーカーの総合栄養食を勧めると思います。これは、一定の信用性が担保されていて無難だからです。他にも良いメーカーはあるかもしれませんので、獣医師が勧めるフードにしなければいけないわけではありません。
  
    

猫に適したフードについて
  
猫は水をあまり飲まない(飲めない)ため、ドライフードだけだと水分摂取不足になると言われています。割高ではありますが、できればウェットフード主体(半分以上)にしてもらったほうがいいでしょう。ドライフードの場合は、なるべく水を飲めるように置き場所や容器などを工夫してください。
  
犬は水をたくさん飲めますので、ドライフードだけでも問題は生じないようです。
 
   

病気予防と食事の関連について
  
病気とフードに関係があるのかという点を含めて、各種病気の予防について考えてみました。
 
    
・腎臓病
腎臓は「脱水」「腎毒性物質」「腎結石や尿管結石」「その他(高血圧、タンパク尿、高リン血症)」などの要因によって悪化します。

そのため、「水分を充分に摂取させる」「腎毒性のある物を誤食させない」「脱水にさせない(熱中症やその他の病気に気を付ける)」「腎臓病および腎臓に悪影響を及ぼす病気(甲状腺機能亢進症、高血圧など)を早期に見つける」などが予防のための対策となります。

フードで腎臓病を予防することはできません。腎臓病用療法食は腎臓病を発症した動物に食べさせるフードです。タンパク質が少なくて健康に悪いですから、健常な動物には食べさせないでください。
 
    
・尿結石
尿結石は体質によるところが大きいですが、フードや水分摂取量も関係してきます。

基本的に、ストルバイト結石は療法食で治療・予防ができますが、シュウ酸カルシウム結石は療法食での予防は難しいです。予防効果に関するエビデンスは皆無で、メーカー各社で言っていることも異なります。

ストルバイト結石の治療あるいは再発予防のために療法食を食べさせることはよくありますが、何の異常もない動物に予防的に食べさせるのは塩分過多などの懸念から勧められません。同様の理由から、高齢になっているのに同じ療法食を食べさせ続けるのも勧められません。一般的に、高齢になると尿結石ができにくくなりますし、他の病気に合わせてフードを変えたほうがいいという状況にもなってきます。いろいろな療法食がありますので、続ける必要があるのかどうかも含めて獣医師の指示を受けながら使用してください。

シュウ酸カルシウム結石の予防に関しては、私は最近は療法食を勧めなくなってきています。とにかく水分を摂取して尿を薄めることが最重要なので、療法食に限らずウェットフード主体にする、ドライフードをふやかす、水を飲めるような環境を整える、などのことを優先しております。サプリメントや内服薬(クエン酸カリウム)は、可能であれば勧めております。

健常な動物で尿結石予防のためにできることも、水分摂取です。最近は猫のシュウ酸カルシウム結石が多いですから、猫では特に水分摂取に気を付けてください。ドライフードがウェットフードよりも優れている点はほぼありませんので、猫の嗜好性や費用の問題がなければウェットフードをお勧めします。療法食に使うお金があるのであればウェットフードに使ったほうがいいです。
   
   
・猫の特発性膀胱炎
猫の特発性膀胱炎は原因が解明されているわけではありませんが、ストレス、運動不足、肥満、水分摂取不足などが関係していると考えられています。

予防としては、ストレス軽減、体重管理、水分摂取などが重要となります。それでも発症を繰り返す場合には、ストレスや炎症を緩和させる成分が入った療法食を使用してみるのもいいでしょう。
  
   
・心臓病
心臓病の種類は動物によって異なります。人では血管系の病気が多いため食事が関連してきますが、犬猫では食事はあまり関連しないと思われます。

犬では心臓病予防のためにできることは特にありませんが、病気があるかどうかは聴診でほぼ検出できますので、獣医師にたまに聴診してもらって状態を把握しておくのが良いでしょう。

猫に関しては、心臓病の診療は非常に難しいです。聴診で検出できない心臓病がたくさんありますし、心拍数が速くてまともに検査できない場合もあります。他の病気の治療で麻酔、輸液、ステロイド投与などを行ったことが引き金となって突然心臓病を発症する場合もありますし、何らかのイベント(生活環境の変化、新入り猫との不仲など)によるストレスで発症する場合もあります。これらを回避することは実際には難しいですが、猫では急に心臓が悪くなることがあるという認識を持っておいていただくと早急に治療を開始して救命できるかもしれません。

塩分摂取制限に関しては、犬猫ではメリットが確認されていませんので、過剰に摂取しなければ問題ないと思われます。

肥満は犬猫の心臓病の直接の原因にはなりませんが、心臓に負担をかけて悪化要因となる可能性はあります。しかし、心臓病になった後は体重を維持したほうが長生きできるというデータもあります。状況しだいですので獣医師に相談してください。
  
    
・肝疾患、胆嚢疾患、膵炎など
「肥満」「高脂肪食の給餌」などが病気と関連する場合があります。

肝臓病用療法食は特殊な状況を除いて推奨されませんので、自己判断で使わないでください。多くの場合、低脂肪食が推奨されます。
  
  
・糖尿病(猫)
肥満の猫は糖尿病を発症するリスクが高いです。また、膵炎も糖尿病の原因になり得ると考えられています。

猫の膵炎は食事とは無関係ですので、膵炎予防のフードは特にありません。

低炭水化物・低GIフードで糖尿病を予防できるかどうかは不明ですが、やって悪いことはないでしょう。肥満を予防することが第一ですが、それが無理であればせめて低炭水化物・低GIフードにすると膵臓への負担は軽減するかもしれません。

肥満の予防については後述します。
 
    
・糖尿病(犬)
犬の糖尿病は肥満とは無関係です。膵炎は糖尿病の原因になり得ると考えられています。

犬の膵炎に対しては低脂肪食が有効ですので、膵炎の既往歴がある犬では低脂肪食を食べさせると良いでしょう。
 
   
・歯周病
歯周病予防には歯磨きが最も有効です。その他としてサプリメント、歯磨きガム、歯垢予防のドライフードなどもある程度効果があります。なお、ふつうのドライフードには歯垢予防効果はありません。

歯周病を放置すると心臓病や腎臓病を発症するリスクが高くなることが知られています。必要に応じて全身麻酔下での治療をお勧めします。
 
  
・癌
人では環境要因として、煙草、アルコール、塩分、加工肉、熱いもの、野菜・果物不足、肥満、ウイルス感染などがリスク因子と考えられているようです。動物に当てはまるものは少ないですね。

動物では、猫白血病ウイルス感染は癌の発症と関連します。また、避妊去勢で一部の癌を予防できることも知られています。

フードに関しては、おそらく犬猫の癌の発症とはあまり関係がなく、遺伝や運などの要因のほうが大きいと思われます。
 
  

予防食と治療食の違い
   
病気の治療で使う療法食を予防目的で使うのは意味がないどころか有害である可能性があります。ネットで購入して失敗する方が多いのでご注意ください。

全ての病気に対応したフードはありません。あちらを立てればこちらが立たずということになります。個人的な考えとしては、既往歴や健康診断結果などで何の心配もなさそうであればふつうの総合栄養食でかまいません。予防または治療すべき病気がある場合は、その中で優先順位を考えてフードを選択するのがいいでしょう。
   
  

体重管理と水分摂取の重要性
   
ここまで長々と書いてきましたが、体重管理と水分摂取が重要であるという話が何回も出てきました。

・体重管理
肥満は様々な病気と関連します。例えば関節疾患・椎間板ヘルニア・呼吸器疾患などとの関連は理解しやすいと思いますが、その他の病気についても発症リスクが高くなります。体重管理のためには運動をしたほうがいいですが、運動だけで痩せるのは不可能であり、食事管理が最も重要となります。

フードに関しては、総カロリーだけでなく炭水化物、脂肪、繊維などの量も関連すると思われますが、何が最善なのかはよくわかっていません。個体差もありますから、効果がありそうで且つ続けられそうなフードを試行錯誤していくのがいいでしょう。減量用療法食を使うのが最も無難ですが、野菜を加えたりウェットフードを増やしたりするのも有効です。
 
・水分摂取
水分摂取は泌尿器疾患(腎臓病、尿結石、膀胱炎など)の予防に有効であり、特に猫において重要となります。具体的にはウェットフードを食べさせるのがいいのでしょう。ウェットフードは体重減少の効果も期待できますので、一石二鳥と言えます。
 
  

健康に気を付けていても病気になる場合はある
  
人でも動物でも、健康に気を付けることによって予防できる病気と予防できない病気があります。遺伝的な体質や運という要因も多分に存在します。

生活習慣が関連する病気は動物よりも人のほうが圧倒的に多いのではないかと個人的には思っております。健康に気を付けなくていいわけではないのですが、あまり神経質になりすぎないことも重要です。

病気になった時に、フードが良くなかったのではないかと気にされる方は多いです。おやつしか食べていないとか重度の肥満とかであれば別ですが、ふつうのフードを食べさせていたのであれば多くの場合はおそらく無関係だと思います。
 
    

歯周病治療について
  
健康には気を付けているけど麻酔が怖いから歯周病は放置という方が割と多いのは気になっております。歯周病は様々な病気を引き起こす可能性がありますので、日頃のケアをなるべく行い、状態が悪ければ麻酔下での処置を検討していただいたほうが良いと思います。
 
  

後半のまとめ
   
・病気にならないために、肥満予防、水分摂取、歯周病管理が重要である。
   
・万能なフードは存在せず、既往歴や健康診断結果に応じてフードを選択するのが良い。
  
・予防できる病気とできない病気がある。早期発見に努めることも重要である。

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