犬猫の血液検査では一般的にALT、AST、ALP、GGTなどの肝酵素が測定されます。これらが高い場合は肝臓の疾患があることが示唆されます。ただ、肝疾患には様々なものがあり、肝酵素の数値だけで鑑別できるわけではありません。また、肝臓に根本的な原因がなく他の疾患の影響で二次的に高くなっていたり、逆に肝臓に重篤な疾患があるのに高くならなかったりする場合もあります。
ALTとASTは肝細胞内に存在する酵素であり、肝細胞の障害により血液中に漏出し、高値となります。ALPとGGTは胆管上皮細胞などに存在する酵素であり、胆汁の流れの悪化などにより産生が増加し、高値となります。
肝酵素の一部は肝臓以外の組織にも存在し、それが数値に影響する場合があります。ALPは骨からも産生されるため、成長期(1歳齢以下)では病気がない状態でも高値となります。ASTは骨格筋や赤血球などにも存在し、それらの障害がある場合には高値となります。
肝酵素は肝機能とは関係がありません。肝機能は肝臓における代謝や解毒の能力のことですが、これについてはBUN、アルブミン、血糖値、ビリルビン、アンモニア、胆汁酸などが指標となります。肝機能低下は危険な状態であり、積極的な検査や治療の必要性があります。
肝酵素は肝臓・胆管・胆嚢の炎症や腫瘍、胆管閉塞などにより上昇します。ただ、肝疾患で必ず高くなるというわけではなく、肝硬変や門脈体循環シャントなどでは肝機能が低下していても肝酵素は正常値であったりする場合もあります。
また、肝臓は全身から様々な影響を受け、それにより肝酵素が上昇する場合があります。副腎・甲状腺などの内分泌疾患や、高脂血症、膵炎、胃腸炎、感染症、中毒、心疾患などがあると二次的に肝障害が起こり、高値となります。その場合は根本的な原因に対する治療が必要となります。犬猫ではこのような二次的な肝酵素上昇が多いと考えられています。
肝酵素が上昇している動物の症状は様々で、無症状のこともあります。上記のような他の疾患に関連した症状がみられる場合もあり、肝臓自体が原因なのかどうかの見極めが重要となります。肝臓や胆嚢に原因があっても無症状のことは多く、追加検査や治療をするべきかどうか判断が難しい時があります。
肝疾患を診断するには血液検査だけではなくX線、超音波、CT、組織生検などの検査が必要となります。CTや組織生検は麻酔が必要なためあまり頻繁には行われません。超音波検査は非常に有用です。肝酵素が高い場合はまず超音波により肝臓・胆嚢やその他の臓器の確認をすることが勧められます。必ず異常が見付かるというわけではありませんが、見付けられる疾患も多いです。
治療については、症状がある場合には当然ながら原因となっている疾患の治療を行うことになりますが、肝酵素値だけが高くて原因がはっきりせず無症状といった場合にはいろいろなやり方があるかと思います。一般的には無治療で経過をみてから再度検査をするか、あるいは強肝剤や抗菌剤などの投薬を行って効果を判定するかのどちらかが多いと思います。胆汁の流れが悪かったり高脂血症があったりする場合などは低脂肪食への食事変更も有効です。肝臓用療法食は主に肝機能低下の症例に使われるフードであり、低脂肪ではないために高脂血症などを悪化させる可能性もあります。肝酵素上昇の原因がはっきりしない場合には肝臓用療法食は推奨されません。
以上、個々の疾患については書ききれませんが、肝酵素上昇について概説しました。重要なことは、肝酵素上昇=肝臓病とは限らず、肝酵素値だけが問題ではないということです。数値が高い場合はまず超音波検査や肝機能の評価を行い、他の疾患も視野に入れながら追加検査や治療を行っていくという流れになります。健康診断などで血液検査をする際には、難しいとは思いますがこのようなことを踏まえて理解をしていただければと思います。