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院長コラム
2023/11/04
【コラム】犬の避妊・去勢

今回は犬の避妊・去勢についてまとめました。
   
   

避妊・去勢の目的

雌犬の卵巣(+子宮)を摘出することを「避妊」、雄犬の精巣を摘出することを「去勢」と言います。それらの手術の目的として以下の2点が挙げられます。
   
・発情や問題行動への対策
「発情ストレスからの解放」「雄犬のマーキングやマウンティングの軽減」などの効果があります。
   
・病気の予防
「子宮蓄膿症」「乳腺腫瘍」「前立腺疾患」「精巣腫瘍」「会陰ヘルニア」「肛門周囲腺腫」などの病気を予防することができます。
   
   

避妊・去勢で予防できる主な病気

・子宮蓄膿症
子宮蓄膿症は、中年齢以上の未避妊の雌犬でよくみられる病気です。発症する時期は「発情出血が終わってから2ヶ月位内」です。この時期は体調の変化に特に注意し、「元気消失」「食欲低下」「飲水量増加」「外陰部からの排膿」などの症状が一つでもみられたらすぐに動物病院を受診してください。日毎に状態が悪化していきますので様子を見てはいけません。
   
治療法は手術(卵巣子宮摘出)となります。早めに手術をすればほとんどの場合で救命できますが、腎不全、DICなどの合併症が生じると厳しくなります。また、元から重度の心臓病があって手術が困難な場合なども厳しいです。
   
   
・乳腺腫瘍
若齢時に避妊すると、将来的な乳腺腫瘍の発生確率が低下します(初回発情前で1/200、2回目の発情前で1/12、3回目の発情前で1/4)。乳腺腫瘍を予防したい場合は2回目の発情よりも前に避妊するとよいでしょう。
   
乳腺腫瘍の治療法は手術です。良性と悪性が半々と言われていますが、小型犬では良性の確率のほうが高いようです。悪性の場合は放置すると肺に転移して亡くなりますので、悪性が想定される場合は早めの手術が推奨されます。ただ、良性悪性の判断が難しく、手術に踏み切るタイミングも難しいです。
   
このようなよけいなことを考えたくない方は若齢時に避妊していただくのがよいと思います。
   
   
・前立腺疾患
前立腺は加齢に伴って肥大します。去勢すると前立腺は縮小し、大半の前立腺疾患は発症しなくなります(前立腺癌を除く)。
   
「前立腺肥大」は命には関わりませんが、「血尿」「排尿障害」「便秘」などの症状を引き起こします。それらが問題となるようであれば去勢を行うとよいでしょう。高齢になってからでも手術を行う場合はよくあります。
   
「前立腺炎」は前立腺の細菌感染です。全身的にもかなり状態が悪くなります。前立腺炎は抗菌薬が効きにくいため、治療に難渋する場合もあります。
   
前立腺炎が悪化して「前立腺膿瘍」になると非常に危険です。抗菌薬だけでなく穿刺による排膿や前立腺の手術なども必要になってきますが、亡くなる可能性も高いです。前立腺膿瘍になってから去勢しても効果はありませんので、膿瘍になる前の段階(前立腺炎が落ち着いた時点)で去勢をするのが望ましいです。また、感染しているのが耐性菌である場合は非常に厳しい状況になりますので、ふだんから抗菌薬を使わず温存しておくことも重要となってきます。むやみに抗菌薬を使わない病院をかかりつけとして選ぶのがよいでしょう。
   
   
・精巣腫瘍
精巣腫瘍は高齢犬でよくみられます。特に、潜在精巣(停留睾丸、陰睾とも呼ばれる)の場合は腫瘍になる確率が非常に高いです。
   
精巣腫瘍の治療は手術です。悪性がほとんどであり、すでに転移していて救命できない場合もあります。
   
   

避妊・去勢のデメリット

犬の避妊・去勢のデメリットとして、以下の5点が挙げられます。
   
・太りやすくなる
代謝の低下、食欲の亢進によって太りやすくなります。
   
・尿漏れ
雌犬の避妊後、数年くらい経過して尿漏れが生じる場合があります。
   
・他の病気になりやすくなる可能性がある
避妊・去勢により、腫瘍や関節疾患を発症しやすくなる可能性が示唆されています(後述)。
   
・手術による身体への負担、リスク
全身麻酔下の手術となりますので、身体への負担があります。また、リスクはゼロではありません。
   
・費用
手術費用が掛かります。費用は病院によって異なります。
   
   

避妊・去勢が腫瘍や関節疾患に及ぼす影響

近年、避妊・去勢によって腫瘍や関節疾患の発症リスクが上がるという研究結果が報告されています。エビデンスとしてはまだ不十分ですし、因果関係もはっきりしておりません。また、犬種毎に大きく異なるようであり、一般論として個々の犬に当てはめるのはなかなか難しいです。
   
現状においては、このデメリットよりも既に述べた病気予防のメリットのほうが大きいと考えられます。ただし、手術実施時期については慎重に考えたほうがよいでしょう(後述)。
   
   

避妊・去勢をしたほうがよい?

個人的には「犬の避妊・去勢はしたほうがよいけど絶対すべきとまでは言えない」といった見解です。個々の状況に応じて判断するのがよいでしょう。
   
避妊・去勢をすると発情ストレスがなくなって穏やかに暮らすことができます。特に、「マーキングに困っている」「発情が来ると毎回元気や食欲がなくなる」などの場合は手術を強く勧めております。
   
避妊・去勢による病気の予防効果は大きいです。高齢になってから手術や治療をするのは大変ですし、発覚した時点で手遅れの可能性もありますから、先々のために手術するのは妥当な選択だろうと思います。ただ、全頭が病気になるわけではありませんしデメリットもありますので、絶対にやるべきとまでは言えないだろうと思います。
   
例外は潜在精巣の場合です。潜在精巣は腫瘍化する確率が非常に高く、そうなると手遅れな場合が多いですから、必ず去勢するように勧めております。勧めてもやらない人はたまにいますが、そのような人は犬を飼う資格がないと思っておりますし飼われている犬がかわいそうだなとも思っております。潜在精巣の犬は必ず去勢をしてください。
   
   

避妊・去勢を行う時期

既に述べた腫瘍や関節疾患の発症リスクについては、手術実施時期による影響も大きいようです。
   
大雑把な話としては、「大型犬は遅めに避妊・去勢したほうがよい」ということが言えます。大型犬では、早めに避妊・去勢をすると関節疾患(前十字靭帯断裂など)を発症しやすくなる傾向があるようです。腫瘍については犬種毎に大きく異なりますので一概に言えませんが、特定の犬種では注意が必要となります。また、小型犬では早めの避妊・去勢による悪影響は少ないようです。
   
手術実施時期としては、一般的には「半年齢以降で早め」が推奨されていると思われます。小型犬はそれで問題ありませんが、大型犬は遅めのほうがよいのかもしれません。ただ、雌では乳腺腫瘍も予防したいですから、2回目の発情前にはやりたいところです。総合的に考えて、大型犬では「1歳齢以降で早め(雌は2回目の発情前)」を個人的にはお勧めしております。
   
   

避妊・去勢手術の流れ

避妊・去勢を行う際には、まず診察および術前検査(血液検査、X線検査、心電図検査、凝固系検査、尿検査、超音波検査など)を行います。そして、異常がなければ手術に進みます。
   
当院では以下のような方法で行っています。

術前検査:血液検査のみ
去勢手術:日帰り
避妊手術:1泊入院
   
   

病院による違いについて

犬の避妊・去勢はほぼすべての病院で行われていますが、病院によって以下のような点が異なります。
   
・術前検査
全く検査を行わない病院もありますし、多くの検査を行う病院もあります。基本的に、避妊・去勢は若くて健康な犬に対する手術ですので、検査を行わなくても問題が生じる確率は低いです。ただ、確率が低いとはいえ一定の割合で病気が存在することも事実です。一方で、検査を行っても全ての病気を検出できるわけではありませんし、手術リスクがゼロになるわけでもありません。また、検査を増やすほど費用は高くなってしまいます。多くの検査を行うことが絶対的に正しいというわけではなく、リスク低下と費用負担のバランスを考慮して各病院で判断しているということになります。
   
当院では血液検査のみ行っておりますが、貧血や腎臓の数値の上昇がみられることはたまにあります。そのような場合は、「中止して病気の精査」「延期して再検査」「事前に点滴をしてから手術」などを飼い主さんと相談しています。
   
重大な病気(心臓・腎臓・肝臓・脳の先天性異常など)も稀にみられますが、それらを発見するためには問診や身体検査も重要となります。身体検査で何か疑わしい所見がある場合は、通常よりも詳しく検査を行ったほうがいいでしょう。また、家での様子で気になること(元気や食欲がない、水をよく飲む、呼吸が荒い、行動がおかしいなど)があるようでしたら、些細なことでも必ず獣医師に伝えるようにしてください。
   
   
・卵巣のみ摘出か、卵巣子宮摘出か
避妊手術の術式として、「卵巣摘出」「卵巣子宮摘出」の二通りがあります。
   
避妊手術においては、卵巣を確実に摘出することが重要となります。卵巣がなければ卵子やホルモンが産生されませんので、妊娠や発情は生じなくなり、子宮は萎縮して病気にもならなくなります。卵巣がなければ子宮の病気になることは絶対にないと考えていただいても差し支えありません(すでに病気になっている場合を除く)。
   
ですから、子宮を摘出するメリットは何もなく、かといって残しておくメリットも何もないということになります。個人的には、簡単に摘出できるならすればよいし、摘出できないならしなければよいという程度に考えております。当院では、基本的には子宮も摘出しておりますが、状況しだいで卵巣のみの摘出とする場合もあります。
   
   
・結紮糸を使用しない手術、腹腔鏡手術など
特殊な手術法として、「結紮糸を使用しない手術」「腹腔鏡による手術」などがあります。
   
避妊・去勢においては結紮糸を使用せず血管シーリングシステムを使用することも可能です。結紮糸は異物であり、炎症を引き起こす可能性がありますので、使用しないで済むのであればそれに越したことはありません。ただ、過去の報告では絹糸の使用が炎症の原因となった事例がほとんどであり、モノフィラメント吸収糸を使えば問題が生じる確率は限りなく低いと思われますので、個人的にはあまり神経質になる必要はないと考えております。
   
腹腔鏡は、傷口の小ささや痛みの軽減が期待できる手術法です。若い小型犬ではメリットはほぼないと思いますが、太った大型犬などで難易度が高い場合にはメリットはあると思います。デメリットは「費用の高さ」「慣れていない獣医師がやるとむしろ危険」などでしょうか。腹腔鏡手術は一般的ではありませんし絶対的に良い方法というわけでもありませんが、希望する方は実施可能な病院に相談していただくとよいでしょう。
   
結紮糸に関しては「体内に糸を残さないほうがよい」と言われますが、腹筋や皮膚の縫合は糸を使っているわけですし、他の手術の場合も使っているのでしょうから、何か危険性が過剰に強調されているような気がします。15年前くらいにミニチュアダックスフンドで縫合糸に起因する炎症が頻発して問題になりましたが、近年は聞いた覚えがありません。シーリングを使いたい本音としては「結紮よりもシーリングのほうが手術が簡単」「安全性アピールで差別化」といったことかと思われます。
   
   
・麻酔、鎮痛薬、輸液など
「麻酔法」「鎮痛薬や輸液投与の有無」などは病院によって様々であり、安全な麻酔に対する意識も獣医師によって様々です。これらは非常に重要なところではありますが、外部から判断するのは難しいのではないかという気がします。   
   
   
・入院の有無
避妊、去勢ともに日帰りで行うことも可能ですが、多くの病院は1泊入院で行っているのではないかと思います。どちらが正しいということはありません。
   
   
・内服薬の有無
抗菌薬を処方する病院と処方しない病院がありますが、基本的には手術翌日以降は不要、というか使うべきではありません。中にはコンベニアを使う病院もあるようですが、耐性菌に対する意識が低すぎて論外です。当院は手術直前に1回のみ抗菌薬を注射しております。
  
  
・手術費用
病院によって手術費用は異なります。犬の大きさ、術前検査、手術法、麻酔法、入院の有無、その他様々な要因が関連してきますので、高ければぼったくりであるとは限りません。
  
  

避妊手術の難易度について

犬の避妊手術は飼い主さんが想像するよりもはるかに難しいです。若い小型犬であればさほどではありませんが、「肥満」「中年齢以上」「中型〜大型犬」などになると格段に難易度が高くなります。頻繁にやる手術がそんなに難しいわけないだろうと思われるかもしれませんが、これが難しいのです。「絶対に失敗が許されない手術だからこそ難しい」みたいな心掛けの話ではなく本当に難しいです。
   
具体的には「奥深くにある卵巣を引っ張り出して血管を結紮して離断する」という工程が難しいです。「卵巣は靭帯で固定されておりなかなか引っ張り出せない場合がある」「脂肪が多くて血管が見づらかったり結紮が大変だったりする場合がある」などが難しい理由です。避妊手術においては卵巣を確実に摘出することが重要なのですが、そこが最も難しいということになります。犬と猫で手技自体は同じなのですが、難易度が全然違います。
   
ただし、慣れればほとんどの獣医師はできるようになります。私は今でも緊張しますし簡単だとは思いませんが、慣れたおかげで焦らず安全に手術をすることはできます。過去に失敗したり事故を起こしたりしたことは一度もありません。
   
そして、ほとんどの病院では安全に手術を行っていると思うのですが、一部で技術と知識と意識が不足している病院も存在します。ふつうは「卵巣は絶対に取らないといけないし、もし無理であれば撤退してきちんと伝えなければいけない」と考えるはずなのですが、知識や意識が不足している獣医師は平然と卵巣を取り残したりします。つい最近も、やや近くの病院での取り残し事例を聞いたばかりです。自分の病院を開院する時点で犬避妊を1人でやらなければいけない覚悟は持っているはずなのですが、覚悟なく開院してしまうとそのようなことになります。
   
外科専門の病院に行く必要は全くなく、ほとんどの病院で安全に手術は可能なのですが、一部の病院はやめたほうがいいです。安さだけで選ばないことをお勧めします。
   
   

避妊手術の皮膚切開について

皮膚切開の短さを売りにしている病院もあるようですが、これは意味のないこだわりです。皮膚切開が短くても卵巣を引っ張り出すことに変わりはありませんので、痛みが小さくなるわけではありませんし、手術時間も大して変わりませんし、術後の回復具合も変わりません。外科専門医の先生は総じて「きちんと皮膚切開して安全にやれ」と言っています。ただ、無駄に切る必要もありませんので、私もなるべく短くなるように努力はしております。
   
先輩獣医師や動物看護師が、皮膚切開を短くしろとプレッシャーをかける病院もあるかもしれません。経験が浅い獣医師は、それを真に受けて無理をして事故を起こす可能性もあると思います。先輩獣医師のフォローがあるかどうか、性格の悪い動物看護師がいるかどうか、などは外部からはわかりませんが、雰囲気が悪く殺伐としている病院は避けたほうがよいかもしれません。また、飼い主さんからもよけいなプレッシャーをかけないほうがよいと思います。安全が第一です。
   
   

乳歯抜歯について

避妊・去勢のついでに遺残した乳歯を抜歯することはよくあります。乳歯が自然に抜けるか遺残するか予想できない場合もありますが、飼い主さんと相談して抜いたり抜かなかったりしております。
   
歯のことだけ考えるのであれば、自然に抜けなさそうな乳歯はもっと早めに抜歯して咬合を矯正したほうがおそらくよいのでしょう。ただ、避妊・去勢よりも歯を優先して対処していくのはなかなか難しいです。そちらを優先したい方は歯科専門病院で相談していただくのがよいでしょう。
   
   

まとめ

・犬の避妊・去勢にはメリットとデメリットがある
   
・手術の実施時期も重要
   
・避妊は技術的に難しいため、病院選びに注意が必要

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