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院長コラム
2022/06/13
【コラム】犬と猫の健康診断

 
今回は犬と猫の健康診断について、重要と思われる点をまとめました。
  

何のために検査を行うか
  
健康診断の目的は「ゆっくり進行する慢性疾患を早期または無症状のうちに見つけること」であると考えております。
 
具体的には心臓病、肝臓病、腎臓病、泌尿器の結石、内分泌疾患、などです。
  
癌はどうなのかというところですが、急速に進行しますので年に1回や2回の検査では早期発見は難しいと思われます。ただ、運良くタイミングが合えば早期に発見できることもあるかもしれません。
 
  
健康診断の頻度
   
一般的には「若い頃は年1回、高齢になったら年2回」と言われることが多いですが、決まりはありません。検査結果で気になる点があれば、若くても半年毎の検査を勧めたりもしております。
   
「1歳から毎年全部の検査をやりたい」という方もいらっしゃいますが、「そこまでやらなくてもいいんじゃないですか」と言ってしまうことが多いです。最初からがんばりすぎず、高齢になるにつれてがんばっていったほうがよいでしょう。
   
当院ではワクチン接種(犬5種、猫3種)は3年に1回を推奨しております。個人的には、ワクチンを毎年打つ代わりに健康診断を行ったほうが有益であると考えております。
   
   
健康診断を行う時期
  
一般的に「犬は春、猫は秋~冬」みたいな健康診断のイメージがありますが、いつでも実施可能です。
  
「犬は春に予防(狂犬病、ノミ、フィラリア)があるのでそのついでに勧めやすい」「猫は犬の繁忙期が終わった秋~冬にやりたい」という病院側の事情によるものと思われます。
  
「今だけ○○%OFF!!」みたいなことをやっている病院もありますが、私はそのような商法は嫌いなのでやりません。だいたい元の価格が高いでしょうから得をするとは思わないほうがいいです。安く検査してあげたいのであれば常に安くすればいいのではないかと思っております。
   
   
何の検査を行うべきか
  
多くの検査を行うに越したことはありませんが、手間と費用がかかるという問題があります。以下は、健康診断において何の検査を行うべきかという点について考えていきます。
  
   
血液検査だけ行えばよい?
  
「健康診断=血液検査」というイメージを持たれている方は多いようです。「血液検査だけやっておけば大きな病気はだいたい見つかるだろう」と思われている方も多いようです。しかし、実際にはそんなことはありません。血液検査で発見できない病気はたくさんありますし、むしろ発見できない病気のほうが多いぐらいです。せっかく健康診断を行うのであれば、他の検査も一緒に行ったほうが病気の見逃しは少なくなります。
  
毎年血液検査だけを希望される方もいらっしゃいますが、個人的にはお勧めしておりません。検査を絞るのであれば、他の検査(超音波など)と交互にやるなどの方法をお勧めしております。
  
なお、高齢猫においては触診と血液検査だけでもかなり多くの病気を検出することができますので、とりあえず血液検査だけやってみるというのも悪くはない気がします。
  
  
超音波検査について
  
腹部超音波検査では、主に膀胱、腎臓、肝臓、胆嚢などに異常が見つかることが多いです。血液検査で検出できない異常(臓器の腫大や萎縮、結石など)も多数検出することができます。
  
心臓の超音波検査は、犬では聴診の異常がなければ行う必要はないと考えております。猫では全頭行ったほうがよいかもしれませんが、興奮や頻脈などの影響で正確な検査が困難な場合もあります(後述)。
  
  
X線検査について
  
腹部X線検査も、臓器の腫大や萎縮、結石などの検出に有用です。超音波検査と比較すると、全体像の把握、臓器の位置異常の検出、尿管および尿道結石の検出、などに優れています。
  
胸部X線検査は、肺、気管支、気管、食道などの病気の検出に有用です。咳、呼吸困難、吐出などの症状がある場合には優先的にお勧めしております。
  
  
尿検査について
  
尿検査では、泌尿器の出血、炎症、感染、結晶、尿糖、尿タンパク、などを検出できます。症状(血尿、頻尿、多尿など)があったり、他の検査で異常(結石、腫瘤、高窒素血症など)があったりした場合には尿検査をお勧めしております。
  
  
当院での健康診断
  
当院では、基本的には血液検査と腹部超音波検査をお勧めし、何か症状がある場合にはそれに合わせて他の検査もお勧めしております。
  
腹部X線検査は行うに越したことはありませんが、私は超音波検査を優先して行っております。
  
胸部X線検査は、無症状の動物において行う意義は小さいような気がしております。肺腫瘍を初期に検出したいということであれば有用ですが、そのためにはかなり頻繁に検査しなければいけないことになります。
   
なお、X線はどの獣医師でも簡単に診断できるだろうと思われるかもしれませんが、これが非常に難しく、まともに読影できる獣医師はかなり少ないです。健康診断でX線検査が行われることは多いですが、微細な異常所見については大半が見逃されているのではないかと思われます。そもそも、きれいなX線写真を撮影するのも大変で、何回も取り直したりしているはずです。以上を諸々考えて、当院ではX線検査をルーチンでは行っておりません。
  
尿検査に関しては、仮に尿が汚くても無症状であれば治療対象にならないという理由から、積極的には行っておりません。ただし、タンパク尿の検出には有用ですので、腎臓に問題がありそうな犬猫ではタンパク尿の検査をお勧めしております。
  
検査の種類や頻度に関して完璧を求めるときりがありませんので、妥協は必要です。個人的な見解を書いておりますが、超音波よりX線を重視する獣医師もいるでしょうし、異論はたくさんあると思います。   
       
      
健康診断でよく見つかる異常
  
・肝酵素の高値
  
血液検査でALTやALPが高いという異常が最もよくみられます。
  
肝酵素値には個体差がありますので、多少高い程度であれば全く問題はありません。しかし、ALTが250以上などかなり高い場合には放置しないほうがよいと思います。
  
肝酵素値は肝臓病以外の様々な原因によっても上昇します(特にALP)。具体的には、不適切な食事、肥満、高脂血症、ホルモンの異常、胆嚢の異常、感染症、他の臓器の炎症などです。
  
当院では、肝酵素値が高い場合は、視診や触診で全身に異常がないかをよく確認するとともに、超音波検査で肝臓、胆嚢、その他の臓器に異常がないかも確認します。原因疾患が見つかれば治療や追加の検査をお勧めし、異常が見つからなければ生活環境や食事の改善を指導して後日の再検査をお勧めしております。
  
数値が高いという理由だけでなんとなくウルソやサプリメントを処方する病院もありますが、漫然と飲ませ続ける意味があるのかどうかは疑問です。個人的には、そのような状況で内服の効果を実感した経験はありませんし、「飲ませて効果がありますか?飲ませないとどうなりますか?」と質問されても明確には答えられません。一時的に飲ませてみて効果があれば続けるというのはよいと思いますが、効果がないのであれば飲ませ続ける必要はないと思います。そもそも問題になるほど数値が高い場合には精査(胆汁酸検査、CT、生検など)または強めの治療(抗菌薬、ステロイドなど)が必要となる可能性が高く、ウルソだけ飲ませておけば大丈夫ということはありません。
  
また、食事に関しては、自己判断で肝臓病用療法食を食べさせることは絶対にやめたほうがよいでしょう。説明は省きますが、ほとんどの場合で逆効果になります。
  
  
・BUNの高値
  
血液検査でBUNだけ少し高いという異常もよくみられます。病気としては腎機能低下が考えられますが、他の原因(脱水、消化管出血、高タンパク質の食事、食後の採血など)も考えられます。
  
当院では、軽度の高値であれば、上記の原因を見直して1ヶ月後くらいに絶食での再検査をお勧めしております。「再検査でも高い」または「クレアチニンやSDMAも高い」といった場合には腎臓病の存在が疑われます。
  
ちなみに、SDMAを測定すれば腎臓病を早期発見できるという話が広まっていますが、実際にはそううまくはいきません。SDMAはその時の状態によってかなり変動しますし、クレアチニンは高いけどSDMAは低いといった事例もよく経験します。急性腎障害の評価においては有用ですが、健康診断や慢性腎臓病の評価においては参考程度に捉えたほうがよいと考えております。
  
また、尿比重を測定して腎臓病を早期発見するという話もありますが、1回の検査で判断するのは困難ですからあまり重視しておりません。
  
  
・高脂血症(犬)
  
血液検査で中性脂肪やコレステロール値が高い場合は、生活環境や食事の改善を指導して絶食での再検査をお勧めしております。再検査でも高いようであれば精査(ホルモンの検査など)をお勧めしております。
   
食後であれば健康な動物でも中性脂肪は高くなりますので、必ず絶食時(12時間)の血液検査で判断する必要があります。これは常識だと思うのですが、わかっていない病院は意外に多いようです。食後の検査で高脂血症と誤診されて無意味な療法食やサプリメントを処方されている事例はよくみかけます。
   
   
・甲状腺ホルモンの低値(犬)
  
犬において甲状腺ホルモンの低値がよくみられます。しかし、甲状腺機能低下症の診断は難しく、誤診されている事例も多いです。中途半端に検査すると誤診につながりますので、「無症状であれば検査しない」「検査する場合は他の病気がないかどうかも入念に確認する」など、よく考えて実施する必要があります。
  
  
・甲状腺ホルモンの高値(猫)
  
高齢猫では甲状腺機能亢進症がよくみられます。高齢猫で何かしらの症状(体重減少、嘔吐、下痢、行動異常など)がある場合には甲状腺ホルモンの測定をお勧めしております。診断は容易です。
  
  
・胆嚢の異常
  
超音波検査で胆泥、胆石、胆嚢粘液嚢腫などが見つかることがよくあります。
  
犬の胆泥は大した異常ではありません。また、治療しても減少しないことがほとんどですから、軽度であればあまり気にしなくてよいと思います。重度であれば低脂肪食への変更や内服薬をお勧めする場合もあります。
  
猫の胆泥は病気と関連することが多いため要注意です。他の検査と併せて診断していく必要があります。
  
胆石や胆嚢粘液嚢腫に関しては、すぐには手術を行わないことがほとんどですが、後に閉塞や破裂が生じて緊急手術が必要となる可能性がありますので、存在を把握しておくことは重要と思われます。
  
   
・膀胱結石
   
超音波検査やX線検査で膀胱結石が見つかることがあります(尿検査ではわかりません)。
 
X線に写らない種類の結石もあります。超音波検査のほうが検出率は高いです。
 
   
・腎結石、尿管結石
   
腎結石や尿管結石が見つかることもあります。特に、最近は若い猫において急増しています。
 
腎結石や尿管結石は溶解不可能であり、摘出手術も簡単ではありません。命に関わりますので、早めに把握して手術や予防などの対処をしていくことが重要となります。
   
この病気の検出のために、当院では若い猫でも超音波検査をお勧めしております。怪しければX線検査も行ったほうがよいでしょう。
 
  
・ストルバイト結晶
  
尿検査でストルバイト結晶が認められることがあります。ただし、尿中に結晶が含まれることと結石が存在することはイコールではないという点には注意が必要です。
  
尿中の結晶は、採尿の方法や時間帯によって増えたり減ったりします。特に温度変化の影響が大きいです。そのため、病院で採尿してすぐに検査するのが最も正確と言えます。
  
ストルバイト結晶があるという理由だけでずっと療法食を食べさせるように勧める獣医師もいますが、これはやりすぎと思われます。「ストルバイト結石が存在している」「療法食を食べさせないとストルバイト結石が再発する」「雄猫でストルバイト結晶に関連した尿道閉塞が生じている、あるいは過去に生じていた」といった場合には私も療法食を勧めますが、それ以外の場合にはあまり勧めておりません。
  
  
・腎臓の大きさの異常
  
超音波検査で腎臓の大きさや形状の異常が見つかることがあります。すぐに治療が必要とは限りませんが、その後の慢性腎臓病の予測など健康管理の参考にはなると思います。
   
   
犬の心臓病について
  
小型犬においては、心臓病があるかどうかは聴診をすればほぼわかります。高齢の小型犬の心臓病はほとんどが僧帽弁閉鎖不全症ですが、たまに心臓以外の病気に起因する肺高血圧症もみられます。いずれにしても呼吸状態や聴診で異常が認められたら精査を行えばよいのではないかと思います。
  
  
猫の心臓病について
 
猫においては、心臓病を聴診で検出できない場合が多々あります。また、無症状の心筋症が存在していて何らかのイベント(ストレス、他の病気、麻酔、輸液治療、ステロイド治療など)をきっかけに突然心不全を発症する場合もあります。猫の心臓病は予測が難しく、とても怖いです。
   
心臓病の診断においては超音波検査が最も有用と考えておりますが、「猫の性格」「獣医師の技術」といった点が問題になってきます。
   
興奮している若い猫で心臓の超音波検査を詳細に行うことはなかなか難しいのですが、当院では腹部超音波検査を行う際に無理のない範囲でざっと心臓も見るようにはしております。また、心雑音があったり呼吸速迫の症状があったりする場合には優先的にお勧めもしております。
   
無症状の心筋症を治療するべきかどうかという点に関しては統一見解がありませんが、頻脈や流出路閉塞があるような場合には治療を開始したほうがよいという見解の先生が多い気がします。当院でも飼い主さんと相談の上でβ遮断薬を処方する場合があります。
   
   
健康診断結果の解釈について
   
健康診断の結果は自分で判断するのではなく獣医師に判断してもらってください。治療の必要性に関しても自己判断は禁物です。
   
例えば、基準値ギリギリくらいの腎臓の数値で、勝手に療法食に切り替える人がいます。腎臓病用療法食は低タンパク質で健康に悪いですから、早く切り替えればよいというわけではありません(こちらの記事に書いてあります)。療法食が必要な状況であればこちらから伝えておりますし、自己判断で始めるようなものではありません。
   
人の健康診断はどの病院でやっても大体同じなのかもしれませんが、動物の場合は病院によってだいぶ変わってくるような気がします。病院選びが重要かもしれません。
   
   
歯周病について
  
中高齢の動物で最も多い病気は歯周病だと思われます。歯周病は口の中だけでなく全身(心臓、腎臓、肝臓など)への悪影響も及ぼすため、健康管理のためには歯周病の治療および予防が重要となります。
  
健康に気を使って健康診断を行うのは良いことなのですが、歯周病の治療を避けていると結局のところ健康にはなりません。「健康診断でいろいろ検査するよりも歯周病の治療したほうがいいんじゃない?」という状況には度々遭遇します。麻酔が嫌だという方を説得するのは困難なので諦めておりますが、それでも一度は説明しております。
   
   
関節痛について
  
犬も猫も、高齢になると関節が痛んでくることが多いです。明らかに足が痛そうに見えなくても、体の動きが遅くなったり段差が上がれなくなったりしていたら関節痛が存在する可能性が高いです。そのような場合は、関節の健康維持のためにサプリメントをお勧めしております。
  
歯周病も関節痛も、すぐに生死に直結するわけではありませんが、動物の苦痛軽減および健康状態の維持という面で重要となります。
  
  
体重管理と水分摂取
  
健康維持のための一般的なアドバイスとしては、人であれば「規則正しい生活を」「適度な運動を」「野菜を食べるように」「アルコールは控えめに」とか言うのでしょうけれども、動物に当てはまるものは少ないです。
  
個人的な見解としては、動物では体重管理と充分な水分摂取によって多くの病気を予防することができると考えておりますので、そのようにアドバイスしております(こちらの記事の後半に書いてあります)。
  
  
まとめ
  
・当院の健康診断では血液検査と超音波検査を行うことが多い
  
・何らかの症状がある場合はそれに関連した検査を優先
  
・猫の尿管結石と心筋症は要注意
  
・高齢動物では歯周病と関節痛が多くみられる
  
・体重管理と水分摂取が重要

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